電子機器業界の2021年の現況
2020年の厳しい状況を乗り越えた現在、2021年にはハードウェア設計者にどのような課題と機会が待ち受けているでしょうか?アルティウムの技術製品マーケティングエンジニアであるVince Mazurが、新たな3つの動向について展望を示し、今後1年間にそれぞれの動向に対応するための手順について解説します。
はじめに
2020年は忘れられない年となったというのは決して過言ではないでしょう。昨年は私たち、特に電子機器設計者にとって多くの新しい課題が発生した年でした。現在のところ、ワクチンの完成と入院率の低下により、事態は回復しつつあります。しかし、2020年における動向の多くは、2021年にも引き続き影響を及ぼすと考えられます。さらに、電子機器ビジネスは迅速に変化しつつあり、業界外の事情とはまた別に、2021年にも新たな設計の課題が広がりつつあります。
このブログでは、自宅勤務の継続、電子機器部品の不足、仮想教育という3つの課題について電子機器設計の観点から解説します。各項目では、これらの課題に対処するため今日実行可能ないくつかの方策を挙げ、最後に要約を示します。
自宅勤務の継続
電子機器の設計はチーム作業です。単独の製品開発者でさえも、製造業者の代表者、FAE、基板製造業者、契約製造業者、場合によっては社外の請負業者など、各種の個人や企業と共同で作業を行う必要があります。それと同時に、電子機器設計の複雑な組み合わせは、世界が通常の平穏な状況であったとしても多くの問題点、課題、危険に満ちています。しかし、これこそ電子機器設計というエキサイティングな分野の本質です。自宅から勤務することには多少の利点もありますが、個人間で共同作業を行えないことは依然として問題を引き起こしています。
中規模から大規模の組織の場合、状況はさらに複雑となります。これらの組織の物理的な構成は、単一のサイトから、全世界にわたる接続されたサイトのネットワークまで多岐にわたります。例外もありますが、共同作業の主な手段は直面しての対話で、遠隔地または全世界の拠点間では必要に応じてビデオ会議が使用されていました。製品またはシステム設計内で、特定の主要な製品分野を担当するチームが分断されれば、必然的に不連続が発生します。設計チームの共同作業と、ECADやMCADなどの分野間における強固な連絡は、成功のため不可欠です。これらはパンデミックが発生する前から問題となっていましたが、物理的な分断によってさらに困難な課題となりました。さらに、数百万ドルに相当するテストや測定機器を含む、十分な装備の整った企業の実験室を使用できないことが、深刻な問題を引き起こし続けています。
一部の職業、たとえば営業は自宅勤務を早期から実践していましたが、電子機器製品のエンジニアリングでは実験室の使用や共同作業の必要性から、自宅勤務が広く受け入れられていませんでした。多くの電子機器OEMが拠点と労働力の集中化を止め、断片化したチームが自宅から個々に作業を行うように移行したことで、新たな課題が生まれました。チームとして対話を行うことに慣れていた設計者は、自宅のオフィスに隔離されることになりました。幸い、Zoom、Dropbox、Google Driveなどクラウドベースのツールが迅速に取り入れられたことで、チームの接続は維持されました。アルティウムは新しいクラウドプラットフォームであるAltium 365を最近リリースしました。これはコンピュータ電子機器製品の完全な設計環境を、インターネットに接続されている場所ならどこにでも簡単に延長できる、この種のものとして最初のプラットフォームです。その結果として、自宅でもオフィスと同様の作業環境が使用できるようになりました。
設計者がオフィスに戻り始めても、設計者の作業環境はパンデミック前と、特に対面での連絡において大きく異なったものになるでしょう。ソーシャルディスタンスが依然として求められ、感染予防措置が引き続き行われることによる非効率性から共同作業も多少の影響を受けるでしょう。
現在、行える対処
自宅勤務の環境を最適化するために現在、行える対処について、いくつかの提案を述べます。
- 既に行っていなければ、電子機器の設計と共同作業に固有の必要に合わせて調整された標準のツールの「スタック」を決定します。仮想会議、Slackなどのコメント、およびマークアップツール、設定の作成、PCB設計、一元化された部品ライブラリへのアクセス、共有の設計データ リポジトリなどが含まれます。ここで鍵となるのは、チームの全員が同じ基盤を使用していることの確認です。自宅で行った全ての作業と、関連するデータは、ひとたびオフィスに戻れば、既に設置されている企業の基盤システムに、妥協や不整合なしに統合可能です。
- 実験室を使用できないことが問題なら、企業の機器を自宅に移すか、自宅の環境でテスト機器をリースすることを検討します。また、行うシミュレーションを増やすことも考えます。現在では回路図内でシミュレーションを行うことができ、多くの分析機能も含まれています。これは本質的に仮想のテストおよび測定機器となり、大きく役立つ可能性があります。
- 組み込みソフトウェアの開発に従事しているなら、コードシミュレーション機能を使用してコード開発を強化することを検討します。このシミュレーションは、MicrochipのMPLABⓇ Xなど、多くの主要なIDEで利用可能です。組み込みソフトウェア チームが通常はハードウェアのターゲットを必要とするなら、アーキテクチャを動作コードに抽象化し、ターゲット ハードウェアをエミュレート可能にすることを考えます。これは、完全にターゲット ハードウェアの代わりとなるものではありません。それでも、必要なソフトウェア開発を進めるために役立ち、実験室でハードウェア/ソフトウェアの統合が行われるとき、ソフトウェアははるかに仕様に近いものとなります。
- 社会的な交流の必要性を軽視しないようにします。人間は本質的に社会的な生物で、世界のすべての人々とはこの時期に浮き沈みを体験しています。このトピックについてはいくつかの有用な資料が作成されています。例えば、この記事は一読に値します: https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/coronavirus/in-depth/teleworking-during-coronavirus/art-20487369.
コンポーネントの不足
世界的なパンデミックと、注文のバックログの影響とにより、2021年にはコンポーネントの大幅な不足が発生しました。レポートによれば、いくつかの自動車メーカーは、製造に必要な電子部品が入手不能になったことから、組み立てラインの閉鎖を余儀なくされました。小さな企業は、入手可能な部品の在庫を大企業と奪い合うことになりました。各企業は、このような偶発事態への対処を既に準備していない限り、現在の部品の不足による製造遅延の被害をますます強く受けるようになっていくでしょう。そのような状況では、企業が危険の高いコンポーネントの調達を決定する羽目になり、偽造部品の被害を受ける恐れがあります。偽造部品によって製造業者が受ける収益損失だけでも年間75億ドルに上ると推定されています。このような状況に加えて、世界で最も正確なコンポーネントの情報源であるIHS MarkitⓇによれば、電子部品の製造終了(EOL)が毎日平均15件も通知されていることも考慮してください。IHS MarkitはAltium Proサブスクリプションプランの一部として使用できます。
部品の製造終了、在庫レベル、偽造部品、環境規制の遵守違反という課題はますます重要になりつつあり、BOMコストの管理と、コンポーネント、またはその代替品の選択はこれまでになく複雑になってきています。ジョブを発行する前に、製造に必要なコンポーネントが入手可能であることを確認しておくことは極めて重要です。これを行わないと、不愉快なイベントの連鎖により、製造の不必要な遅延を招く恐れがあります。コンポーネントに関連するリスクの全てを組織自身が予防するのは困難ですが、その多くは偶発事態への適切な対応計画により回避可能です。
現在、行える対処
- 最初の時点から、偶発事態への事前準備を行います。コンポーネントをライブラリに保存する前に、そのコンポーネントの仕様を満たす最低3つの製造業者の部品番号が存在することを確認します。それぞれの部品番号を、コスト、許容差、動作電圧など、プロジェクトに重要な要因に基づいてランク付けします。
- 新しいライブラリコンポーネントを使用する前に、認定済み、シミュレーション済み、さらに実験室でテスト済みの代替品を決定しておくことが重要です。ライブラリが既に存在するなら、各コンポーネントについて代替部品の選択肢を指定します。Octopartなど多くの検索エンジンでは、類似した部品を迅速に探すことができ、現在の在庫レベルについても情報を得ることができます。
- 既に製造中やWIP(Work In Process、作業中)の設計については、BOMをより頻繁にレビューして精査し、問題点や動向を早期に識別します。Altium DesignerのActiveBOMなどのツールはこの作業を自動的に行えますが、この作業をスプレッドシートで人手により行ったとしても、それに費やした時間は、それにより得られる保障という形で、より大きな見返りとなります。
- 可能な限り代替が可能で、結果的に入手可能性が高い設計を行います。優れたICが使用可能な場合、同じ機能のために別々のコンポーネントによる別の回路を使用するというのは設計者の直観に反するものです。しかし、そのICの在庫が信頼できない場合、別々のコンポーネントによる設計を使用することで、生産が実行可能であることを柔軟に保障できます。別々のコンポーネントによるソリューションは多くの場合にICを使用するより安価ですが、これは場合によって異なります。
- 不可欠なライン品目の安全な在庫を確立します。設計においては、仕様とコストの目標を達成するため、特定のデバイスを必ず使用しなければならない場合があります。このような場合は余分のリールを購入し、非常用の在庫として手元に保管します。4セントのコンポーネントのせいで製造が遅延するのは珍しくありません。このような準備は、最も安価な保障として役立つ可能性があります。
- 可能な限り、包括的かつリアルタイムのコンポーネントデータを使用し、より正確な、データ主導の決定を適時行います。Octopartなどのサイトでは、コンポーネント データに無料でアクセスでき、これらの目的のため非常に便利です。Altium 365などの商用プラットフォームは、ギャップをさらに埋めるため役立ち、IHS MarkitⓇの電子部品サプライチェーン情報を取り入れることで、小規模な組織や、さらには個人の設計者でも、Fortune 100レベルの情報が得られるようになります。
仮想教育とイベント
教育への継続的な注力は、長年にわたって電子機器業界の構想の一部でした。電子機器は他のほとんどの分野よりもはるかに速いペースで進歩し続け、その変化はますます加速しています。テクノロジーの最先端と、それに関連する課題に対処するのは、この職務の暗黙的な要件です。最新の技術に適応し、最先端のベストプラクティスを実装し続けなければ、時代に取り残される結果になります。
教室、ワークショップ、会議、トレードショーなどのイベントは、新しい開発、課題、ソリューションを取り入れ続けるための一般的な方法です。このような従来型の教育および情報交換のソースは、Covid後の現代では行われていないか、延期されています。その代わりに、仮想イベント、webセミナー、オンライントレーニングが多数行われています。設計者は従来から多くの時間を画面の前で費やしてきましたが、トレードショーや日常的な対面の会議が仮想対話に置き換わることで、画面と向き合って費やす時間がかつてなかったほど増大し、画面疲れやデジタルへの疲弊が起きています。
体面による教育やイベントへの参加は、仮想の対話に比べて大きな利点があります。ライブのイベントや教育では多くの場合、環境の好ましい変化があり、コンピュータの画面から解放される時間が得られます。オフサイトのイベントにより、設計技術者は専門的技能を磨く貴重な機会が得られます。さらに、技術チームのリーダーは知識やリソースを獲得し、チームに持ち帰って共有できます。社外で開催されるイベントは、グループの話し合いやネットワークを豊富にするための貴重な機会です。
実用上は、仮想環境でも同等の利点を得ることができます。クラウドやオンラインイベントでも豊富なリソースにアクセスできますが、画面疲れ、家庭で雑事に煩わされること、そして職場から隔離され、業務時間後もデスクに留まっていることによるストレスの解決にはほとんど役立ちません。
現在、行える対処
- 学習の場所や空間を作り上げるか、個別化します。仮想イベントのときには自宅の同じオフィスデスクを使用するのではなく、別の部屋や場所を使用することを考えます。場所が変化することで、隔離されている感覚は多少和らぎ、気分を変える要求も満たすことができます。場所がない場合は、電子メールや作業用アプリケーションを閉じ、イベントに参加するため必要なツールのみを開くようにします。可能なら、電話をマナーモードにするか、オフにします。スマートTVやGoogle Chromecastを使用して、仮想教育やイベントをテレビで見られるようにします。自分に適切な方法を使用します。肝心なのは割り込みを最小限に抑え、内容に集中することです。場所を変えたために、良い結果が生まれることもあります。
- 参加する前に、目標と期待を設定しておきます。イベントで何を得るのが目的かを書き出します。特定の疑問への回答を得るのが目的ですか?何かのリソースを受け取るのが目的ですか?特定のネットワークに参加する機会を求めていますか?参加することで何を得たいのかを明確に箇条書きにすることは、そのイベントから良い結果を得られるようにするため大いに役立つ可能性があります。
- 適切にメモを取ります。紙のメモでも、システムでエディターを開くのでもかまいません。適切なメモを取るよう明確な労力を払うことが重要です。現在のプロジェクトに関係する内容が話されているでしょうか?また、それを書き留めておけるでしょうか?新しい創造的な発想につながるような話があったでしょうか?そのような場合、その内容を書き留め、オフサイトのイベントで普段使うような基本原則に従って処理します。
- 可能なら、通常の勤務時間外にスケジュールされているか、オンデマンドで利用できるイベントに参加します。これによって、自分のライフスタイルや好みに応じた時間に参加をスケジュールできます。ただし、多くのライブイベントでは専門家との対話やQ&Aがあり、オンデマンドでの学習を選ぶと、利便性の代わりにこのような利点が得られないことに注意してください。
- 参加の機会を逃さないようにします。仮想会議室、チャット、Q&Aセッションに参加します。同業者や他の参加者と言葉や視覚的に対話するため意図的な労力を払うことで、有益な情報が得られ、人によっては物理的な隔離されている感覚を和らげることができます。また、このような参加には専門的な社交術を磨き、通常の勤務状態に復帰したときに役立てられるという二次的な利点もあります。
概要
この記事では、2021年の現在、パンデミックが収束しつつあることが期待される時期に、電子機器の設計者が直面している課題のいくつかについて解説します。これらの課題として、自宅勤務の継続、現在の電子部品の不足、仮想教育とイベントから可能な限りの利益を得ることが挙げられます。これらの課題のそれぞれを満たすため役立つ、いくつかの手順を紹介します。専門的な労力をさらに活かすため、これらの情報が役立つことを期待します。
2020年は多くのやっかいな問題が起きた年でしたが、それらの問題を解決した企業や個人はより高い適応力と復元力を持つようになりました。2020年に多くの労力を費やして獲得した教訓と、適応力および復元力の精神は、2021年に向けて引き続き、エンジニアリングの職務と、その企業に大きな価値をもたらすことになるでしょう。